2021.11.29
AIによる自動翻訳機によって、英語学習をしなくても済む ― そんな淡い期待を抱いている人はいないだろうか?
そのような期待が英語学習のモチベーションを減退させる可能性があるので、断言しておこう。自動翻訳機が、英語学習ニーズを無くすことはない!(英語教育が無くなってしまっては私が困る!という理由で言っているわけではないことも付け加えておく)
なぜ、自動翻訳機は英語学習を不要にさせてくれないのか。2つの大きな理由がある。
1つ目は、物理的・技術的な問題である。「ポケトーク」のような自動翻訳機は、いちいち相手の外国人の口元にかざしてしゃべってもらわなければならない。さらに自分がしゃべるときも自分の口元に向けなければならない。ビジネスでこんな悠長なことはやっていられない。それなら、ポケトークをあらかじめ2台用意して、お互い1台ずつ使えば、もう少しスムーズになるかもしれない。しかし、複数人の多国籍ミーティングではどうだろうか?「皆さん(私だけのために)、この機械に向けてしゃべってもらえますか?」と、自動翻訳機を配布するのは憚られる。また、誤訳のリスクは決して消えることはない。英語ができなければ、誤訳が起きていることさえ認識できない。このように、リアルタイムのコミュニケーション(通訳)に使用するのには、物理的・技術的に厳しい。
2つめの問題点は、機械越しでは、人間味のあるコミュニケーション、関係構築は難しいという点である。有名な「メラビアンの法則」では、人の印象を決める情報の中で、言語から情報はたった7%にすぎないとされる。残りは視覚と聴覚の情報ということだ。機械に向かって話していては、視覚と聴覚からの印象はガタ落ちである。 このことは、機械翻訳のみならず、人間の通訳者を挟む場合も同じだ。「百マス計算ドリル」で有名な陰山英男さんは、海外の教育シンポジウムに通訳を伴って出席したときのことを、以下のように回想している。
僕が通訳をつけて席に着いた瞬間から、周囲の反応は非常に冷たいものになりました。「なんだ、お前さんは英語も話せないのか、そんなレベルでよくこのシンポジウムに識者として参加しているな」というような空気を否応なく感じました。本当にどうしようもなく冷たい反応で悲しくなるほどでした。 やっぱりビジネスでも人生でも、人と人を結ぶのは結局信頼じゃないですか。だから、自分の言葉で相手に伝える、ということはものすごく大事なんです。
引用:『陰山英男の英語学習「再入門」』
ビジネスは、お互いの信頼関係を構築した後に始まる。しかし、自動翻訳機や人間の通訳が間にいるという状況では、よい関係構築はできようがない。というわけで、当面の間、自動翻訳機により社会人の英語習得ニーズがなくなる、ということはなさそうである。「安心して」英語学習に励もう。