2021.11.18
「TOEIC900点でもしゃべれない」という話を聞いたことはないだろうか?たしかに、TOEIC900点でもしゃべれない人はいる。
しかし、ここで目を向けたいのは、「英語がきちんとしゃべれる人は皆、TOEIC高得点である」という事実である。(ネイティブにTOEICを受けさせると、スコアは皆、950~990点の間に収まる)
TOEICの中でよりスピーキングに関わるのは、リスニングである。上図のとおり、リスニングができる人(=TOEIC高得点者)が全員、スピーキングができるわけではないが、スピーキングができる人は皆、リスニングができる。これは、当たり前の話だ。我々は母親の言葉をじゅうぶんに「聞いて」、それを模倣して「話す」ようになるのだ。聞けないのに話せる赤ちゃんがいたら、驚きである。
しかし、こと英語学習となると、多くの人が、スピーキングを重視するあまり、リスニングを軽んじがちだ。母語はリスニング→スピーキングの順に習得したのに、英語学習ではリスニングをすっ飛ばしてスピーキングから学習しようとする。リスニングができなくても、文字を使えるので、ローマ字読み&日本語の癖バリバリの発音で強引に発話はできてしまう。だからか、リスニング力はスピーキング力とは別個のものとして捉えられがちだ。
そもそも、スピーキング力とは何だろうか?スピーキングとは、アウトプットだ。アウトプットとは、持っているもの=「インプットされてるもの」を出すという行為だ。「インプットされてるもの」とは、音声の知識(リスニングを入り口とした発音)であり、語彙力であり、文法力だ。これらで組み立てた文をアウトプットするという行為がスピーキングだ(発音は要練習だが)。つまり、スピーキング力を要素に分解すれば、その中にはすでにリスニング力が含まれているのである。
話は逸れるが、日本の英語教育でしゃべれるようにならない最大の理由は、リスニングをはじめとした音声の教育が絶対的に不足しているからである。多くの人は、学校教育でしゃべれるようにならないのは、単にスピーキングの機会が不足しているからだと思い、英会話スクールに走る。しかし、リスニングをすっ飛ばしてスピーキングの練習をしても効果は薄い。正確にリスニングできなければ、正確に音を再現できないからだ(勘違いしないでほしいが、リスニングができるようになるまでスピーキングはやるな、と言っているわけではない。問題なのは、スピーキングをやっていれば、リスニング練習はしなくてよい、と思ってしまうことだ)。
さて、話を戻そう。では、なぜ、スピーキング力を構成する要素を既に持っているはずのTOEIC高得点者にしゃべれない人がいるのか?それは、インプットされているものを「スムーズに出し入れすること」の練習が欠けているからだ。先ほど、スピーキング力の中には、語彙・文法・音声の知識がすでに含まれていると言ったが、その上でスピーキング力「固有の」要素は何か?といえば、この「スムーズに出し入れする能力」である。これは練習しなければ身につかない。(なお、練習により、学習した行動を意識せずスムーズにできるようになることを、「自動化」という。スピーキング練習で目指すのは「自動化」だ)
TOEICは5点刻みでも進歩を示してくれるのでモチベーション維持に役立つ。また、テスト勉強を通してスピーキングの材料となる語彙、文法、音声の知識量を蓄積できる。安心してTOEICスコアを追い求めるべきだ。また、TOEIC900点でしゃべれない、という人は心配する必要はない。学校教育で欠けていた音声知識を埋め、スピーキングに必要なポテンシャルはすでに持っている。あとは、それらを「スムーズに出し入れする練習」つまり英会話などのスピーキング練習に邁進するのみだ。TOEIC高得点者は、練習さえ積めば、スピーキング力が伸びるスピードは早い。
会話力と読書力を別物とする説がありますが、それはまったくの俗説です。ヒヤリングも含めて、すべて有機的に関連しております。そういう説を唱える向きは、有機性に気づかぬ自らの無知を表明しているだけでしょう. ──國弘正雄(通称「同時通訳の神様」NHK教育テレビ元講師)