内発的動機づけと外発的動機づけの王道『自己決定理論』

“The only way to do great work is to love what you do.”

“すばらしい仕事をする唯一の方法は、自分のやっていることを好きになることだ”

スティーブ・ジョブズ

以前のコラムで、モチベーションは「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」があると書きました。結果を求める上で、アメとムチに代表されるような「外発的動機づけ」が効果を発揮することはしばしばありますが、活動を楽しみ継続して創造力を発揮するには「内発的動機づけ」を持つことが有効であると言われています。クリントン政権下でスピーチライターを務めたダニエル・ピンクの著書『モチベーション3.0』では、時代と共に移り変わるモチベーションの変遷を、パソコンのOSのバージョンになぞらえ、以下のように述べています。

モチベーション1.0:原始時代の、食欲・性欲などのような生存本能に基づくもの。
モチベーション2.0:工業化社会の、アメとムチに基づいたもの。
モチベーション3.0:経済の成長が頭打ちになった現代社会の、楽しさ、やりがい、貢献感などの内発的動機を中心としたもの。

 上記に当てはめるなら、「外発的動機づけ」は少し古めのモチベーション2.0というOS、「内発的動機づけ」は現代社会向けのOSであるモチベーション3.0ということになるでしょう。

英語教育・英語学習のなかでも、受講者の内発的な動機を高めていく、ということは重要テーマです。そこで今回は、動機づけを考えるプラットホームを提供してくれる、Deci & RyanのSelf Determination Theory『自己決定理論』(以降、『SDT』と省略)について触れておきたいと思います。SDTは、自己決定度(=自律性)を軸に、内発的動機づけと外発的動機づけを考える理論です。以前のブログで紹介した『学習動機の二要因モデル』の方が、このSDTがカバーしきれていない動機づけも扱っていて、また分かりやすく、教育現場の人間としては使い勝手がよいのですが、ここで紹介するSDTは、動機づけ理論の定番なので、知っておいて損はないでしょう。以下は、筆者の方で、理論を簡略化したモデル図です。

model-sdt

SDTは「内発」と「外発」の大きな2つの概念の間に 「自己決定度合い(自律性)」により、活動への動機づけのステージを示したことに大きな意義があります。図では、左に行くほど自己決定度合が小さく(つまり、外部からやらされている度合いが高く)なる動機づけステージを示しています。逆に、右に行くほど自己決定度合が大きく(つまり、自分からやっている度合いが高く)なる動機づけステージを示しています。一番左のExternal Regulationは、文字通り、外部から制御(コントロール)されている状態で、親や上司に叱られるから渋々、何かをやる、またはご褒美がもらえるからやる、というような動機づけです。次にIntrojected Regulationは、外部の価値観により精神的な圧力を受けて何かをやる、というような動機づけです。テストの点数が低かったら恥ずかしいから勉強する、英語が同僚の前でヘタクソだったら恥ずかしいから勉強する、というようなケースがそれにあたります。続いてIdentified Regulationは、自分にとっての有益な価値を認め、それをやる、という動機づけです。将来のために資格の勉強をする、大学に行くために受験勉強をする、というようなケースです。Integrated Regulationは、その活動が自分の価値観に一致しているからやる、という動機づけです。自分が、貧困や格差をなくしたい、という価値観を持っているので募金をしたりボランティアをしたりする、というようなケースです。最後の、Intrinsic Regulationは、活動そのものが面白いからやる、という動機づけです。ゲームが面白いからやる、テニスやゴルフが面白いからやる、というのがこのケースです。

さて、これらの動機づけステージは、移り変わります。たとえば、はじめは無理やり勉強させらたり、塾に通わされていた子ども(External Regulation)が、塾のテストでクラスメイトとのテストの優劣が気になってきて勉強する(Introjected Regulation)。そのうちに、周囲の話から、勉強することによって将来の可能性が広がるということを知り、より自分から勉強するようになる(Identified Regulation)。そうしているうちに、いつしか学校ではいつも上位の成績を収め、勉強することが自分の生活の一部になっている(Integrated Regulation)。そしていつしか、得意なだけではなく、その教科を好きになり、楽しんで勉強するようになる(Intrinsic Regulation)。出来すぎたストーリーかもしれませんが、このように、それぞれの自己決定度のステージから別のステージへと移行していくということは、私たちも経験があると思います。

SDTでは、自己決定の度合いを上げ、「内発的動機づけ」に近付けていくには、Basic Psychological Needs(人間にとっての普遍的な、精神を健全に保つ上で必要な心理的欲求)といわれる autonomy「自律性」、competence「有能感」、relatedness「関係性」を満たすことが大事であるとされています。「自律性」は、たとえば、勉強を押し付けられてやるのとは反対のこと、自分の行動は自分で選択したい、という欲求を指します。「有能感」は、自分の力を発揮し、それを示したい、という欲求です。「関係性」は、その行動を通じて他者と心理的につながっている感覚を持ちたい、という欲求です。

少し理屈っぽくなりましたが、これらのBasic Psychological Needsを確保・刺激し、内発的動機に持っていく工夫についても、今後このブログに書いていきたいと思います。

参考文献:
ダニエル・ピンク(2010)『モチベーション3.0』講談社